二十数年前、私はある上場企業のグループ会社に勤めていました。動画制作の会社です。
当時、私はある事業の仕組みを設計していました。詳細は別の記事に譲りますが、要点はこうです。地域ポータルサイトの構築案件を、大阪に50社ほどあったHP制作会社に相見積もりで発注する。仕事を配ることで制作会社との関係を作り、その50社を、自社の動画制作の販売網に変えるという設計でした。
動画(コンテンツ)は、エンドユーザーに直接売るものではありません。サイトを作る制作会社に卸すものです。家のサッシを作る会社が、施主ではなく工務店に売るのと同じです。1件のHP制作費を自社で取るより、50社の卸網を作る方が、動画会社の利益は桁違いに大きい。
この設計は、上司の営業部長に説明し、彼は喜んで賛成しました。「それでいこう」と。稟議を通したのは彼です。
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1.ある朝の、朝礼で
ある日の朝礼でした。10人ほどの会議で、私の右隣に営業部長、その隣に社長が座っていました。社長と営業部長は、友人同士でした。
社長が、怒りながらこの案件の話を始めました。
「うちはHP制作もできるんだから、なんで他社にやらせるんだ!」と。
もともと当社の事業内容にHP制作など一切ないにもかかわらず、社長は急にそう言い出し、しつこく問い詰めました。誰がやったんだ、と。
私は黙っていました。稟議を通した営業部長が、経緯を説明してくれるはずだからです。
営業部長は、小さな声で言いました。
「上中さんです」
2.数分の場面に、すべてが映っていた
私はこのとき、怒りより先に、妙に冷静な感想を持ちました。ああ、この会社は、この程度なのか、と。
その会社は、10ヶ月で倒産しました。
偶然ではないと思っています。あの数分の朝礼に、会社が倒産する理由が全部映っていたからです。
一つ目。経営者が、戦略を「損」として認識した。 目の前にあったのは、50社の販売網を作る流通戦略です。社長にはそれが「1件の制作費を他社にくれてやる損」に見えた。戦略が理解できない経営者は、悪意ではなく善意で、正しい打ち手を潰します。小銭を拾うために、漁場を焼くのです。
二つ目。管理職の忠誠が、事業ではなく機嫌に向いていた。 営業部長は、自分が賛成し、自分が稟議を通した案件を、社長が怒った瞬間に部下の名前で差し出しました。社長と友人だったからです。縁故で固めた組織では、忠誠の向き先が会社ではなく個人になります。そして個人への忠誠は、危機の瞬間に、必ず誰かを身代わりにして差し出すことで支払われます。
三つ目。意思決定の記録が、機能していなかった。 「誰が決裁したか」は稟議書に書いてあります。それでも「誰の名前を出すか」で処理された。文書より空気が強い組織に、再現性のある意思決定は存在しません。
経営者の戦略理解、管理職の忠誠の向き先、意思決定の規律。この三つが壊れている会社は、商品が何であれ、遅かれ早かれ同じ結末を迎えます。10ヶ月は、むしろ長くもった方だと思います。
3.発注先を選ぶとき、この目で見てください
この話を、私は同業者への愚痴として書いているのではありません。発注者のあなたに、会社の見分け方として書いています。
制作会社でも、コンサルでも、取引先を選ぶとき、提案の中身と同じくらい、その会社の「朝礼」を見てください。もちろん朝礼そのものは見られません。しかし、兆候は打ち合わせに出ます。
担当者は、社内の決定を自分の言葉で説明できるか。それとも「上が言うので」と言うか。トラブルの報告で、主語が「私たちは」か、「〇〇さんが」か。上司が同席した途端に、担当者の意見が変わらないか。
社内の人間を平気で裏切る組織は、いずれ顧客の信頼も裏切ることになります。社内で起きている不誠実さは、必ず社外にも現れるからです。
そして、経営者の方へ。あなたの会社の会議で、誰かが小さな声で部下の名前を言ったことは、ありませんか。あったなら、その瞬間を見ていた社員全員が、あなたの会社の寿命を、心の中で計算し始めています。私と同じように。
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