大阪のある工務店から、HP集客の相談を受けました。
ヒアリングを進める中で、当時の営業部長がふと漏らした一言を、私は聞き逃しませんでした。
「実は、うちで家を建てるお客さんの8割は、隣の市から来ているんですよ」
自社のある市ではなく、隣町。ここに、企画のすべてがありました。
CONTENTS
1.工務店のサイトではなく、「街のサイト」を作った
普通の制作会社なら、こう考えます。「では、その隣町の地名+注文住宅でSEOを強化しましょう」と。
私は違う提案をしました。
その隣町の住民専用の、地域ポータルサイトを作りましょう、と。
工務店の宣伝は、一切しない。載せるのは、その町の喫茶店、時計店、パン屋──地元の店の情報だけです。よそ者にとっては、退屈でまったく面白くないサイト。しかしその町の住民にとっては、毎日の生活に直結する情報です。
「面白くないサイト」を、意図的に作ったのです。
2.三つの反転
この企画には、三つの仕掛けが入っています。
一つ目。取材コストをゼロにした。 地域サイトが失敗する最大の理由は、更新が続かないことです。この企画では、記事を書くのは営業担当者たちでした。彼らは毎日、その町を営業で回っています。その道すがら立ち寄る喫茶店や商店を記事にするだけ。取材は営業活動の副産物であり、コンテンツは尽きません。
二つ目。「狭さ」を参入障壁にした。 一つの市の住民にしか価値のない情報など、大手メディアは絶対に扱いません。市場が小さすぎるからです。しかし、だからこそ独占できる。その町の情報を探す人にとって、選択肢はこのサイトしかない。狭いことは弱点ではなく、誰も攻めてこない城壁です。
三つ目。売らないことで、信頼を先に貯めた。 サイトの運営元として、工務店の名前は自然に認知されていきます。地元の店を紹介し続ける会社。この町のことを一番よく知っている工務店。売り込みを一切していないのに──いや、していないからこそ──「家を建てるなら、まずはあそこに相談してみよう」という想起が、住民の中に育っていきました。
3.数百万円の企画が、数十億円の引き合いを生む
結果、このポータル経由で、年間100棟の販売を達成しました。
地場の工務店の棟数として、これは異常な数字です。たった数百万円のサイト構築費から、40億〜50億円規模の引き合いを生み出した計算になります。
広告費を積んだわけでも、豪華なモデルハウスを建てたわけでもありません。営業担当者の外回りという、すでに存在していて、誰も資産化していなかったものを、コンテンツに変えただけです。
4.商圏が狭い会社ほど、Webでは独占が作れる
この話は、20年以上前のものです。しかし、この型はAI検索の時代にこそ効きます。
AIは「その町のおすすめの店」を聞かれたとき、情報源がそこにしかなければ、そこを引用するしかありません。全国メディアが絶対に書かない、狭くて深い一次情報。ハイパーローカルの独占は、AI時代の最強の資産です。
商圏の狭さを嘆いている経営者の方は、発想を逆にしてみてください。全国では絶対に勝てなくても、あなたの町でなら、情報の独占が作れます。広く戦うな、深く掘れ。
そして、コンテンツの種は、たいてい社内にすでにあります。日々の外回り、職人の現場、顧客との雑談──毎日発生していて、毎日捨てられているもの。それを拾う仕組みを設計できる会社が、その町の「答え」になります。
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