先日、ある起業家の方から相談を受けました。
大手証券会社のM&A部門で働いていた方で、独立してM&A先の選定コンサルティング会社を立ち上げる。そのためのHPを作りたい、というご相談です。
打ち合わせは、盛り上がりました。M&Aコンサルという商材の性質──経営者が会社の売却という人生最大級の意思決定を、誰に相談するかという話であること。だからHPの仕事は飾りではなく、「この人に会社の行く末を委ねていいか」という信用の検証に耐えることだということ。戦略の話は、深いところまで噛み合っていたと思います。
終わりかけに、その方が言いました。
「最近作られたHPを見せてください」
CONTENTS
1.医療サイトを見せた結果
最近の制作物は、たまたま医療関連が続いていました。病院、心療内科、美容外科。お客様から求められるまま、私たちはそれらの画面をお見せしてしまったのです。
その後、連絡は来ませんでした。
理由は想像がつきます。M&Aとまったく関係のない業種のサイトを見て、「この会社はM&Aが分からない」と判断されたのでしょう。1時間の戦略談義より、最後の数枚の画面が勝ったのです。それは単純に、文脈を伝えず「見た目」だけを見せてしまった、こちらの失敗でした。
2.制作実績の「見た目」は、何も語らない
30年、1,500社のサイトを作ってきて、断言できることがあります。
制作実績を見た目で見せると、相手の頭の中の評価軸が「デザインの好み」と「業種の近さ」に切り替わります。画像や配色などの「見た目」ではなく「意思決定構造」で見るべき理由がここにあります。
考えてみてください。病院のサイトと、M&Aコンサルのサイト。業種はまったく違いますが、意思決定の構造は同じです。
人生の重大事を扱う。失敗が許されない。価格では選ばない。「この人は信頼できるか」だけで決まる。だから、不安を一つずつ消す情報設計、専門性の証明、相談への心理的ハードルの下げ方──設計の中身は、驚くほど共通しています。
つまり、あの医療サイト群は、本当は「M&Aコンサルに最も近い設計実績」でした。しかし見た目で見せれば、「関係ない業種」にしか見えない。参考にすべきは見た目の類似ではなく、意思決定構造の類似です。これを伝えずに画面だけ見せたことが、あの商談の敗因でした。
3.だから、制作物の「見た目」は公開しないことにした
この経験も踏まえて、弊社は方針を決めています。
制作事例を、デザインの見本としては公開しません。
代わりに、事例は「どんな課題を、どう設計し、数字がどう変わったか」で語ります。SEOに200万円を投じても予約が入らなかった医院が、設計の変更だけで2週間後に予約3倍になった──お見せすべきはこの構造と数字であって、そのサイトの色や写真ではないからです。
デザインの好みで制作会社を選ぶと、何が起きるか。あなたの好みに合わせたサイトが完成します。しかし、サイトを見るのはあなたではありません。あなたのお客様と、そして今は、AIです。
4.発注前に、一つだけ
これから制作会社を探す方に、一つだけ提案があります。
「うちの業種の実績はありますか」と聞く代わりに、こう聞いてみてください。
「うちのお客様と同じ判断構造の実績はありますか」
高額で、比較されて、信用だけで決まる商材なのか。安価で、衝動的で、その場の魅力で決まる商材なのか。あなたの商売と同じ「決まり方」を設計したことのある会社か。
この質問に、業種の一覧ではなく設計の話で答えてくる会社なら、業種が違っても任せられます。逆に、同業種の綺麗なサイトを並べて見せるだけの会社なら──それは実績ではなく、カタログです。
あのM&Aコンサルの方が、もしこの記事を読んでくださっていたら。あの医療サイトが、なぜあなたの事業の成功を裏付ける最良の証拠だったのか──今度こそ、一番最初から「設計の言葉」でご説明させてください。
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