失敗談

違約金2,000万円で泣いていた社長が、大当たりして、姿を消すまで

違約金2,000万円を背負った携帯店を地域ポータルで劇的に再建させた実話。成功の理由を誤解し他エリアへ無謀に横展開して衰退した企業の失敗から、Web戦略における「有効範囲」と再現性の本質を学びます。

公開日:2026.08.26 カテゴリ:30年の定点観測 執筆:上中清隆(アンドワン株式会社 代表取締役)

二十数年前、友人の強い勧めで、私はある上場企業のグループ会社に勤めていました。

ある日、上司の営業部長から相談を持ちかけられます。知り合いが大阪・南堀江で携帯電話の販売店をやっている。それが、メーカーの定める販売ルールに反した安売りが発覚し、違約金2,000万円を求められている。相談に乗ってやってくれないか、と。
店を訪ねると、社長は泣いていました。「もう、商売をやっていけない」と。
しかし、私がその場で見ていたのは、携帯ショップの再建策ではありませんでした。南堀江という立地です。

CONTENTS

1.街が、答えだった

当時の南堀江は、心斎橋のすぐ隣にありながら、独自のファッション文化で全国に名前が通り始めていた、小さくて濃いエリアでした。

面積は狭い。しかし、情報の密度と感度は異常に高い。この店の商品(携帯電話)には未来がなくても、この店の住所には価値がある──そう見えたのです。

私は提案しました。携帯ショップの立て直しではなく、南堀江だけの地域ポータルサイトを立ち上げましょう、と。

2.四つの歯車

この企画は、四つの歯車で設計しました。

一つ目、場。 南堀江のショップ・カフェ・ギャラリーだけを載せるポータル。エリアの外の情報は一切載せない。狭さが独占を生むからです。

二つ目、営業。 掲載店の開拓は、当の社長自身が近隣の店を回る。「専用サイトです。営業力が上がります」と。自分の商売の再建ですから、誰よりも必死に回ります。

三つ目、収益。 私の勤め先は動画制作を主にしている会社でした。ポータルに載る店には動画コンテンツの需要が生まれる。場を作り、そこに流れる動画制作で収益を取る設計です。

四つ目、流通。 動画はエンドユーザーに売るものではなく、HP制作会社に卸すものです。家のサッシを作る会社が、施主ではなく工務店に売るのと同じ理屈です。当時、大阪のHP制作会社は50社ほど。その全社を回りました。

場、営業、収益、流通。四つが噛み合ったとき、違約金で泣いていた店は、地域メディアの運営者に変わっていました。

3.大当たり、それから

サイトは当たりました。それも、社長が携帯ショップを畳んで、ポータル運営に専念できるほどに。

そして、ここからがこの話の本題です。

社長は、このポータルを他の地域にも展開し始めました

私は止めました。詳しく説明もしました。これは南堀江だから当たったのだと。狭くて、濃くて、文化の文脈がある街だから、「そこだけのサイト」に価値が生まれたのだと。条件の揃わない街で同じ器を作っても、それはただの情報サイトだと。

しかし、彼は聞きませんでした。当たった人には、自分の実力で当たったようにしか見えないのです。彼はさらにHP制作業にまで手を広げました。

その会社は、今はもうありません。

4.戦略には「有効範囲」がある

この話から持ち帰っていただきたいのは、成功譚の前半ではなく、後半です。

成功の理由を理解しないまま成功した人は、その成功体験によって足元をすくわれます。

戦略には、必ず有効範囲があります。南堀江の勝ち筋は「狭くて濃い街」という条件の上に立っていました。条件の外で同じことをするのは、戦略の再現ではなく、儀式の反復です。うまくいった手順をなぞれば、またうまくいくはずだという──それは戦略ではなく、迷信です。

だから私は、成果が出たお客様にこそ、次の一手の前にもう一度リサーチを求めます。「前回当たったから」は、次が当たる理由になりません。前回なぜ当たったのか、その条件は次の戦場にもあるのか。それを確認してからでなければ、勝ちは広げられないのです。

成功は、分析を止める最高の言い訳になります。気をつけてください。当たった直後こそ、一番危ない。

RELATED ARTICLES

関連ページ

NEXT ACTION

成功要因を分析し、確実な事業展開(Web戦略)を行いたい方へ。

自社の強みや戦略の「有効範囲」を正しく見極め、次のWeb施策を成功させたい方はアンドワンの無料相談をご検討ください。