実例

「SNSでなんか企画を考えてくれ」の一言から、3億4千万円の助成金が下りるまで

分譲地企画で商品の定義を再設計し、3億4千万円の助成金を獲得した実話。Web施策の枠を超えて事業そのものを再定義する企画力と、長期的な経営戦略まで見据えたサポートの重要性を語ります。

公開日:2026.08.26 カテゴリ:30年の定点観測 執筆:上中清隆(アンドワン株式会社 代表取締役)

法人化して最初のお客様は、大阪・堺の大昇という工務店でした。社長から直接、電話がかかってきました。

「堺の浜寺に37棟の分譲地を建てたい。資金に大阪府の助成金を使いたい。社長(私のことです)、SNSかなんかの企画で、その助成金が下りる企画をちょっと考えてくれ」
HP制作会社への依頼としては、かなり変わっています。サイトを作ってくれ、ではない。助成金が下りる企画を考えてくれ、です。
私は引き受けました。自由な依頼が、私の仕事の定義を変えることになります。

CONTENTS

1.審査基準から逆算する

助成金の企画で最初にやるべきことは、アイデア出しではありません。審査する側が何を求めているかを読むことです。

対象は新規事業向けの助成金でした。つまり審査員が見るのは「新しいか」。既存技術の寄せ集めでは通りません。

当時、まだ世に出はじめたばかりの「スマートハウス」に目をつけました。調べると、東芝とパナソニックが部材を提供している。パナソニックに直接連絡を取りました。テレビ(ビエラ)から二階の照明を消せる、住宅制御のプラットフォームがあったのです。ここまでなら技術の目利きですが、企画はここからでした。

2.「守られる家」から「守り合う街」へ

そのプラットフォームの中に、分譲地専用のSNSを構築する企画を立てました。各家庭の太陽光発電量を共有し、大阪ガスのセキュリティシステムを載せる。

核心は、セキュリティの設計にあります。通常のホームセキュリティは、侵入があれば契約者本人にだけ通知が行きます。私たちはこれをSNS経由で反転させ、隣家への侵入が、分譲地の居住者全員の携帯に届くようにしました。

これは技術の話ではありません。商品の定義の転換です。37棟の家の集合として売るのではなく、一つの守り合う共同体として売る。個別契約のセキュリティを、コミュニティ型に変えた瞬間、この分譲地は「建売住宅」ではなく「新しい住まい方の実証」になりました。審査員が求める「新規性」とは、こういうもののことです。

3.3億4千万円

大阪府の担当者4名へのプレゼンで、この構想を説明しました。皆さん、唸っておられました。

助成金は下りました。3億4千万円。加えて銀行から3千万円の融資もつき、37棟の分譲地は無事に建ちました。完成日には、大手自動車メーカーの役員がEV関連の視察に訪れていたほどです。売れ行きも好調でした。

浜寺には、今もあの家々が建っています。

4.良い物を作る力と、会社が続く力

社長は、腕の良い職人でした。耐震性に妥協しない、良い家を作る人でした。自分の家を建てるなら大昇以外は考えられない──当時の私は本気でそう思っていましたし、何より、この企画に乗る度胸と、実行する力がありました。

しかしその後、市況は大きく変わっていきます。デフレが深まり、売れる土地は手に入りにくくなり、あの頃のような案件を組める時代ではなくなっていきました。

そのとき私は、思い知ることになります。良い物を作る力と、会社が続く力は、別のものだと。そして当時の私には、お客様の会社の中に入って、経営を支える力がありませんでした。3億4千万円を引く企画は立てられても、その先の利益と資金繰りまでは踏み込めなかった。それが、今も残っている悔いです。

5.だから、経営の話から始める

この案件から、私は二つのことを学びました。

一つ。私たちの仕事の射程は、Webサイトの中に収まらないということ。USPは、サイトに「書く」ものである前に、現実の側に「作る」ものだということです。助成金の審査基準から逆算して、商品そのものを再定義する──それができれば、サイトは後から付いてきます。

二つ。企画がどれだけ当たっても、経営の土台が揺らげば、成果は残らないということ。

私が今、サイトの依頼を受けても、必ず経営の話から始めるのは──事業戦略を聞き、数字を聞き、実行の体制を聞くのは──あの時できなかったことを、二度とできないままにしないためです。

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